仏郵便公社を襲ったDDoS攻撃:年末年始の二重の混乱と親ロシア派の影

2026-01-03
Cyber Security News 編集部/ 脅威インテリジェンスアナリスト
#インシデント

フランスの郵便サービス大手ラ・ポストが、クリスマス商戦の最中に大規模なサイバー攻撃の標的となり、そのオンラインサービスは数日間にわたり機能不全に陥った。2025年12月22日月曜日に始まったこの分散型サービス拒否(DDoS)攻撃は、同社の主要ウェブサイト「laposte.fr」をアクセス不能にし、フランス全土のデジタルインフラに深刻な影響を与えた。この攻撃は、単なるウェブサイトのダウンにとどまらず、市民生活や経済活動の根幹を揺るがす事態へと発展したのである。

攻撃は、年末の物流がピークを迎える時期を狙って仕掛けられ、その影響は広範囲に及んだ。報道によると、ラ・ポストのウェブサイトだけでなく、その金融部門であるラ・バンク・ポスタル(La Banque Postale)のオンラインおよびモバイルアプリ、デジタル保管サービス「Digiposte」、そしてラ・ポストのデジタルIDサービスなど、多岐にわたる情報システムが一時的に利用できなくなった。これは、フランスの重要な公共サービスが、デジタル時代においていかに脆弱であるかを浮き彫りにする出来事であった。

さらに特筆すべきは、このサイバー攻撃が物理的な業務にも影響を及ぼした点である。通常、DDoS攻撃はオンラインサービスに限定されることが多いが、今回はフランスの首都パリの一部の郵便局で、顧客がサービスを受けられずに引き返さざるを得ない状況が発生したと報じられている。ラ・ポストは、窓口での銀行取引や郵便取引は可能であると説明したが、デジタルサービスへの依存度が高い現代社会において、その混乱は計り知れないものがあった。

この攻撃は、フランス内務省から警察記録を含むデータが盗まれた事件のわずか数日後に発生しており、一連のサイバーインシデントが単独のものではなく、より広範な連携キャンペーンの一部である可能性を示唆している。セキュリティ専門家ジョン・カーベリー氏(Xcape)は、攻撃が「年間で最も忙しい時期に、何百万もの人々の金融および物流の動脈を効果的に窒息させる」ように「完璧なタイミング」で仕掛けられたと指摘し、その戦略的な意図を強調した。

年末年始を標的とした二重の混乱

ラ・ポストを襲ったサイバー攻撃は、一度きりの出来事ではなく、年末年始にかけて二度にわたる混乱を引き起こしたことが明らかになっている。最初の攻撃は2025年12月22日に始まり、クリスマス期間中の12月26日まで継続し、特に小包追跡サービスに深刻な影響を与えた。この期間中、多くの顧客が自身の荷物の状況を把握できず、物流の透明性が失われる事態となったが、幸いにも実際の配達業務自体は通常通り進行したと報じられている。

しかし、この混乱が収束したかと思われた矢先、2026年の元旦にも再びラ・ポストとラ・バンク・ポスタルのサービスがサイバー攻撃によりアクセス困難になる事態が発生した。ラジオ局RFIの報道によれば、この二度目の攻撃も同社のウェブサイト「laposte.fr」および全ての情報システムに影響を及ぼし、ラ・バンク・ポスタルのウェブサイトやアプリも大部分が利用不能となった。年末年始という、人々が最もオンラインサービスに依存する時期を狙った連続攻撃は、その悪質性を際立たせている。

これらのDDoS攻撃は、サーバーに過剰なトラフィックを送りつけることでオンラインサービスへのアクセスを妨害する典型的な手法だが、その「異例の長さ」が注目されている。特に最初の攻撃は、数日間にわたってサービスを麻痺させ、単なる一時的な障害を超えた広範な影響をもたらした。これにより、顧客は荷物の追跡だけでなく、デジタル金庫サービス「Digiposte」や、一部のオンラインバンキング機能も利用できなくなり、日常生活に多大な支障が生じた。

ラ・ポストは、この期間中、顧客がオンライン決済を行う際にはSMS認証を引き続き利用できること、またATMからの現金引き出し、店舗でのカード決済、WEROを通じた送金は可能であることを強調し、代替手段を提供することで混乱の緩和に努めた。しかし、デジタル化が進む現代において、これらの手作業による回避策は、広範なユーザーベースのニーズを完全に満たすには限界があったことは想像に難くない。

DDoS attack diagram showing traffic overwhelming a server

親ロシア派ハクティビスト集団「NoName057(16)」の影

ラ・ポストに対するクリスマス期間のDDoS攻撃の背後には、親ロシア派のハクティビスト集団「NoName057(16)」の存在が浮上している。パリの検察当局は、このグループが攻撃の責任を主張したことを確認し、国内治安総局(DGSI)と国家サイバー部隊に調査を委託した。このグループは、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった2022年に結成され、その活動は親ロシア派の情報戦を支援することを目的としていると専門家は分析している。

NoName057(16)は、DDoS攻撃を主な戦術として用いることで知られており、過去にはウクライナのメディアウェブサイトや、ポーランド、スウェーデン、ドイツの政府機関や企業ウェブサイトを標的としてきた。彼らの目的は、標的のサーバーを過負荷状態に陥らせ、オンラインサービスへのアクセスを妨害または遅延させることにある。今回のラ・ポストへの攻撃も、このグループの典型的な手口と完全に一致しており、その政治的動機が強く示唆されている。

このハクティビスト集団は、特定の組織構造を持つというよりは、むしろ緩やかなハクティビストの集まりであると考えられている。彼らは、ロシアの地政学的利益に沿った形で、サイバー空間での混乱を引き起こすことを常態化させている。今回のラ・ポストへの攻撃は、フランスがウクライナ支援において積極的な姿勢を示していることへの報復、あるいは警告の一環である可能性も指摘されており、サイバー空間における国家間の緊張関係が如実に表れた事例と言えるだろう。

ラ・ポストは、今回のDDoS攻撃によって情報システムへの侵入やデータの盗難は発生していないと強調している。DDoS攻撃は、サービスの可用性を損なうことを目的としたものであり、情報漏洩とは異なる性質を持つ。しかし、その長期間にわたるサービス停止は、企業や公共機関の信頼性、そして国家のデジタルインフラのレジリエンスに対する深刻な懸念を呼び起こす結果となった。

国家レベルの「ストレステスト」か:攻撃の深層分析

今回のラ・ポストへの攻撃は、単なるハクティビズムの範疇を超え、国家レベルの「ストレステスト」としての側面を持つ可能性が指摘されている。Xcapeのジョン・カーベリー氏は、攻撃が「小包追跡、デジタルサービス、モバイルバンキングを同時に麻痺させることで、年間で最も忙しい時期に何百万もの人々の金融および物流の動脈を効果的に窒息させた」と述べ、そのタイミングが最大限の混乱を引き起こすよう「完璧に計られていた」と分析している。この発言は、攻撃の背後にある戦略的な意図の深さを示唆している。

攻撃当初、責任を主張するグループがすぐに現れなかったことも、この「ストレステスト」説を裏付ける一因となっている。カーベリー氏は、「即座に犯行声明が出なかったことは、単純な金銭的動機ではなく、国家が支援する、あるいはハクティビストによる国家レジリエンスの『ストレステスト』を示唆している」と指摘した。これは、フランスの重要インフラがサイバー攻撃に対してどの程度の耐性を持つかを試す目的があった可能性を示唆しており、より広範な地政学的文脈の中で捉える必要がある。

この攻撃は、フランス内務省からのデータ盗難事件など、最近フランスで発生している他のサイバーインシデントと並行して発生しており、これらが孤立した事象ではなく、調整されたキャンペーンの一部であるという懸念を増幅させている。このような状況は、国家レベルでのサイバーセキュリティ戦略の再評価を促すものであり、重要インフラを担う組織にとって、ディスラプションが避けられないものと仮定したレジリエンス計画の重要性を浮き彫りにしている。

DDoS攻撃が物理的な業務にまで影響を及ぼしたという事実は、サイバー攻撃がもはやデジタル空間に限定された脅威ではないことを明確に示している。オンラインサービスが停止することで、顧客は郵便局での手続きに支障をきたし、信頼は必然的に損なわれた。これは、サイバー攻撃が単にITシステムの問題に留まらず、企業の評判、顧客関係、さらには国家経済全体に波及する可能性を持つことを示す、現代の脅威の複雑さを物語る事例と言えるだろう。

Illustration of a nation-state cyber attack with flags and network connections

サービス復旧への道のり:当局と企業の対応

ラ・ポストは、今回の前例のない大規模なDDoS攻撃に対し、迅速な対応と復旧作業に全力を挙げた。同社は、攻撃発生直後から「当社のチームは、可能な限り迅速に状況を回復させ、一刻も早く通常の状態に戻すために総力を挙げて取り組んでいる」と声明を発表し、顧客への影響を最小限に抑えるための努力を強調した。しかし、その影響は数日間にわたり、特にオンラインサービスを利用する顧客にとっては大きな不便を強いることとなった。

サービスが一時的に利用不能となる中で、ラ・ポストは顧客が重要な取引を継続できるよう、いくつかの回避策を講じた。具体的には、ラ・バンク・ポスタルの顧客は、SMS認証を利用することでオンライン決済を継続することができた。また、ATMからの現金引き出しや、店舗のPOS端末でのカード決済、そしてWEROを通じた送金サービスも引き続き利用可能であった。これらの代替手段は、デジタルサービスが麻痺した状況下で、顧客の金融活動を完全に停止させないための重要な役割を果たした。

しかし、小包追跡サービス「Colissimo」やデジタル保管サービス「Digiposte」など、完全にオンラインに依存するサービスにおいては、顧客は数日間にわたる機能不全に直面した。特にクリスマス期間という物流のピーク時に追跡情報が更新されないことは、多くの利用者にとって大きなストレスとなった。ラ・ポストは、データが盗まれたという証拠はないと強調し、DDoS攻撃が情報システムの侵害とは異なる性質のものであることを明確にしたが、顧客の信頼回復には時間を要するだろう。

今回の事件を受けて、パリの検察当局は直ちに調査を開始し、国内治安総局(DGSI)と国家サイバー部隊に捜査を委託した。これは、ラ・ポストへの攻撃が単なる技術的な問題に留まらず、国家の安全保障に関わる重大な事案として認識されていることを示している。当局は、NoName057(16)が犯行声明を出したことを確認しており、このハクティビスト集団の活動の全容解明と、将来的な攻撃への対策が急務となっている。

国際連携による対抗策とハクティビストの粘り強さ

親ロシア派ハクティビスト集団NoName057(16)の活動は、今回のラ・ポストへの攻撃以前から、国際的な法執行機関の注目を集めていた。2025年7月には、ユーロポールとユーロジャストが調整する国際的な共同作戦「オペレーション・イーストウッド」が実施され、このグループに対する大規模な取り締まりが行われた。この作戦では、100台以上のサーバーがオフラインにされ、フランスとスペインで逮捕者が出るなど、グループの活動に大きな打撃を与えたと報じられている。

しかし、この国際的な努力にもかかわらず、NoName057(16)は驚くべき回復力を見せた。報道によれば、オペレーション・イーストウッドの実施からわずか数週間で、このグループは以前と変わらない活発さで活動を再開したという。これは、緩やかな組織構造を持つハクティビスト集団が、中央集権的な指揮系統を持つ犯罪組織と比較して、取り締まりの後に再編・再活性化しやすいという特性を示している。彼らの粘り強さは、サイバーセキュリティ対策における新たな課題を提起している。

ジョン・カーベリー氏が指摘するように、ラ・ポストのような規模の組織にとって、レジリエンス計画はディスラプションが避けられないという前提に立つ必要がある。多様なインフラストチャーの構築、DDoS緩和策の事前交渉、そして明確なオフラインフォールバック計画は、ディスプレイが暗くなった際にも事業を継続するために不可欠である。今回の事件は、これらの対策が単なる推奨事項ではなく、現代の脅威環境における必須要件であることを改めて浮き彫りにした。

特に、ホリデーシーズンという年間で最も忙しい時期に、国家の重要なインフラが標的とされたことは、サイバー攻撃が社会全体に与える影響の大きさを物語っている。顧客の信頼は必然的に損なわれ、事業継続性への懸念が高まった。国際的な法執行機関による継続的な努力と、重要インフラを担う組織自身の強固な防御体制の両方が、このようなハクティビスト集団による脅威に対抗するために不可欠である。

デジタルインフラへの警鐘:ホリデーシーズンを狙う脅威

ラ・ポストを襲った一連のDDoS攻撃は、現代社会のデジタルインフラが抱える脆弱性と、ホリデーシーズンを狙うサイバー脅威の巧妙さを浮き彫りにした。この事件は、単一の企業の問題に留まらず、国家全体のレジリエンス、特に年末年始のようなピーク時の重要インフラ保護に関する警鐘として受け止められるべきである。サイバー攻撃が物理的な業務にまで影響を及ぼした事実は、デジタルと現実世界の境界線が曖昧になりつつある現代において、その影響範囲を再認識させるものとなった。

今回の攻撃は、DDoS攻撃が単なる一時的なサービス停止にとどまらず、数日間にわたる広範な混乱を引き起こし、市民生活や経済活動に深刻な影響を与える可能性があることを示した。特に、NoName057(16)のような親ロシア派ハクティビスト集団が、地政学的な動機に基づいて重要インフラを標的とする傾向は、今後も継続する可能性が高い。彼らの活動は、国家間の緊張がサイバー空間に直接反映される「情報戦」の一環として捉える必要がある。

セキュリティ専門家が指摘するように、このような大規模な組織は、攻撃が避けられないという前提でレジリエンス計画を策定する必要がある。具体的には、インフラの多様化、DDoS緩和サービスとの事前契約、そしてオンラインサービスが利用できない場合の明確なオフライン代替手段の確保が不可欠となる。ラ・ポストがSMS認証や窓口対応といった回避策を講じたことは評価されるが、デジタル化が進む中で、より堅牢な多層防御と事業継続計画が求められる。

パリ検察当局による調査は現在も進行中であり、NoName057(16)の活動の全容解明と、将来的な攻撃への対策が急務となっている。国際的な法執行機関による連携強化と、各国の重要インフラ事業者におけるサイバーセキュリティ投資の拡大が、このような脅威から社会を守るための鍵となるだろう。ラ・ポストの事例は、ホリデーシーズンにおけるサイバー脅威への警戒を怠ってはならないという、現代社会への明確なメッセージを発している。

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